徒然妄想日記

腐った妄想を吐き出す場所。

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看護学生ハボ4

続き。↓


 ロイがハボックの部屋に入ったのはこれが初めてである。ハボックのワンルームのアパートの部屋をぐるりと見回すと徐に「狭い」と感想を漏らした。
「うっさいですよ。こっちのアパート、東部より高いんだからしょうがないでしょ」
「貧乏学生」
「うっさい」
 短く言い放つとハボックは椅子に座った。ロイはハボックのベッドに腰掛けている。何しろ部屋が狭い上にレポートやテキストなどを床の上にばら撒いているので座る場所がないのである。
 あのままロイを部屋に入れないままだったら一体何を喋りだすかわからなかった。せっかく平穏無事でお隣とも仲良くやっていたのに、変な波風は立てたくないハボックである。とは言うものの、ハボックはロイがわざわざうちに来た真意を図りかねていた。
 ロイはベッドの上にごろんと転がってテレビなどをつけている。リモコンを手にしてチャンネルを無造作に変えているその様子をぼーっと眺めていると目線は合わせないまま、勉強しろと言われてしまった。
「あのねぇ、ロイ…」
 文句を言おうとハボックが口を開いた時、いきなりロイが立ち上がった。思わず身構えたハボックであったが。
「お前飯食ったか?」
「へ?」
 予想していた言葉とは違っていたので拍子抜けしてしまう。
「一応、食ってるよ」
「今日は何食った?」
「何って…摂りあえずパンと牛乳…」
「何?その前もか?…お前そんなんでよくそのでかい体で生きてられるな」 
 思い切り眉をしかめて、ロイは溜め息をついた。そんな風に言われてハボックはものすごく自分が悪いことをしてるような気がしてしまう。
「看護学生の食生活とは思えないな。馬鹿か」
 しかも今は実習中である。かなり精神と体力を使う期間だというのに、きちんとした食生活をしていないと体調を壊してしまうだろう。
「人がきてみればコレだ…」
 ばか。とロイは言うと徐に玄関に向かうと出て行ってしまった。
「な、何、何しにきたんだ、あの人っ」
 いきなり訪ねてきたかと思えば勝手に帰っていく。馬鹿と言うだけ言って去っていってしまった。無性に腹が立つ。
「今度きても絶対に入れてやんねー!!」
 玄関に向かってハボックは叫んだ。先程までの空腹はどこかに行ってしまったようだった。


 あれ?なんかいい匂いがする。
 まどろみの中、ハボックは鼻をくすぐる香りに目を覚ました。
 ああそうか。ここは家なのだ。懐かしい、東部の家。昼寝していた自分を夕食だと行って母親が起こしにくる。
 『ジャン』
 そう優しく言ってそっと肩を揺さぶられるのを待っていたのに、訪れた衝撃は背中へのきつい蹴り一発。
「起きろ」
 と同時に低い男の声。ハボックは30秒ほど現状把握ができぬまま呻いていた。
 痛む背中を押さえつつ、涙目で見上げたそこには憎らしいほど男前の従兄弟がいた。その目が大きく瞠られる。
「…何泣いてるんだ。ほら、冷めるぞ」
「え?」
 言われて視線を横に向けると、小さなローテーブルを適当に片付けたその上にはほかほかのビーフシチューが湯気をたてて待っていた。驚いて声も出せないでいると、早く座れと怒鳴られる。慌ててノートやテキストを足で避けてそこに座った。
「………イイ匂いだと思ったのこれだったんだ」
「食べろ」
 ロイも同じようにしてハボックの向かいに座る。シチューをみつめたまま動かないハボックに焦れてロイが促した。
「まさかロイが作ったの?」
「他に誰が作るんだ?お前に彼女がいるとかいう話は聞いたことがないけどな」
「マジ?」
「うるさい。早く食べろ」
 また怒鳴られて、ハボックはまたもや慌ててスプーンを手にすると一口口に入れた。ロイはじっと見つめている。
「………うまい…」
 素直な感想だった。出来立てのビーフシチューが空腹の腹にじんと染みる。
「うわ、マジうまい!」
 ハボックはパクパクとスプーンを口に運んだ。ふと目線を前に向けると、さっきまで監視するようだったロイの瞳がどこかほっとしたように和らいだように見えた。
「ぐ、げほっ」
 思わず咽てしまって、ハボックは息苦しさに喘ぐ。
「馬鹿、がっつくからだ」
 呆れているロイには先程のような優しい色はない。
「まぁ私の手料理に感動するのもわかるがな」
 はっはっは、と得意そうに笑う、それはいつものロイだ。何だったんだ、今の?見間違いか?いやだけど、と見慣れないものを見てしまったという動揺がなかなか引かない。水を口にしてようやくなんとか落ち着いた。
「帰ったんじゃなかったんだ」
「買い物に行ってたんだよ」
 それはわざわざビーフシチューの材料を買いに行ったということだろうか。
「もしかして、さ…もしかして、心配してくれてたとか…?」
 ハボックは先程から思っていたことを口にした。だからわざわざ自分のことを見にきてくれたとか?
 ハボックの言葉に一瞬動きを止めたロイだったが、それからすぐに何言ってるんだと心底呆れたように言った。
「え、だってそうじゃなかったなんで俺のとこなんかにあんたが来るんですか」
「叔母さんに頼まれたんだよ。見に行ってやってくれって、さっき電話で!」
「お袋がぁ??」
 そういえばさっき電話で何か言いかけていた。多分このことだったのだろう。
「あ、そう…」
 期待していた答えとは違って何だかがっかりした。いや期待ってがっかりって何だ俺。
「何だ、私がこない方がよかったって言うのか?人がわざわざ出向いてやったっていうのに。大体お前は人に対する感謝の念が足りん。まーだ聞いてないぞ。お前私に言うことがあるだろうが」
 ふんぞり返ってそんなことを言う。くう、恩着せがましい…!!
 そうは思ってもお腹が空いて死にそうだったのも事実なので。
「どーもありがとー」
 とりあえず感謝の言葉を寄越す。その言い方にまだ不満気な目でロイはハボックを見ていたが、徐に立ち上がると帰ると言った。用は済んだとばかりにあっさりとロイはその後は見向きもしないでさっさと玄関で靴を履いている。狭い部屋なのでそこまでの距離もあっという間だ。玄関のドアノブに手をかけたところで、ロイは振り返って思いついたように言った。
「ジャン、お前明日から俺ん家に来い」
「…へ…?」
 一瞬何を言われたのかわからなかった。
「医者として言わせてもらう。お前の食生活滅茶苦茶だ。このままだったら確実に体壊す」
「そ、そんなの、あんたに関係ないでしょう!」
 やっと意味が把握できて、とんでもないこと言うなと言い返す。
「関係ある。―――伯母さんになんて言われるか」
 ロイは昔からハボックの母親に弱かった。しかも自分を疑いもせずにしんじてくれているのだ。ここでハボックに何かあったら何を言われるかわかったもんじゃない。
「結局はそれかよ!」
 反論するハボックであるが、ロイは目で却下した。お前に反論する余地はないのだと言っている。思い切り睨まれて思わず竦んでしまった、そんな自分が悔しい。
「それじゃぁな」
 ひらひらと片手を翻して、ロイは出て行った。握り締めていたスプーンはいつの間にかすべり落ちていた。ビーフシチューも冷めてしまっている。
「勝手だ…」
 何でも勝手に決めてしまう。昔からそう。人に意見を求めるだけ求めて結局は自分の好きなようにしてしまうのだ。
(変わってない。変わってないぞ、ロイ…!!)
 昔の思い出がひしひしと蘇ってくる。
 とりあえず残されたビーフシチューに罪はなく、ハボックは冷めてしまったそれを片付けることにした。
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好きなものは鶏からとカレーと抹茶のスイーツ。
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